2015年1月7日水曜日

2『愛の法則』プロローグ


プロローグ

  君は幸せだと言い切れるだろうか?
 いや、まだ答えないでほしい。明るく答えられるような質問じゃないし、自分に正直に答えてもらいたいからだ。僕が期待する返事は何だろうと考えながら、うわべを取り繕った回答をする必要はない。
 それに、正直になってほしいというのは、僕に対してではない。僕のことは簡単に騙せるだろうし、そうしたとしても何の問題はない。自分を偽らずに本当のことを答えてほしいのは、この問いかけへの答えで、君の人生全体が左右されてしまうからだ。
 なぜ、そんなに大事なものなのか、だって?
 それは、僕が、すべての人の願いは真に幸せになることだと思っているからだ。それとも、君は幸せになりたいとは思っていないのだろうか。
 でも注意して見てみると、大多数の人が幸福そうには見えない。幸せ感が溢れ出ていないからだ。それはなぜだろうか? もしかしたら僕たちは、どうしたら幸せになれるのかを知らないのかもしれない。
 一体、幸せになることなどできるのだろうか? できるとしたら、どうやって?
 どうしたら幸福になれるのだろうか? という問いは誰もが一度はしたことがある筈だ。人は感覚的に、幸せになることは愛を経験することだと思っている。それはカップルの愛という意味だけれど、僕たちは、自分を幸せにしてくれる愛に出会うことを夢見がちだ。
 でも中には、そんなことはない、愛が幸せをもたらしてくれることなどない、と反論する人もいると思う。自分はすごく愛したことがあるけれど、その愛によって苦しんだから、と。このような人たちは愛を苦悩と結びつけて考えてしまって、苦しまないで済むために愛さないようになってしまう。
 だけど、一体、愛とはなんだろう? また、苦悩とはどういうものだろうか? 僕たちは本当に愛というものを理解しているのだろうか?
この本を読みながら、このことについて考える時間はたっぷりあると思うので、これらの疑問を投げかけておいて、話を変えたいと思う。

 初めての幽体離脱を経験して霊的世界とコンタクトできた後、抑えがたい郷愁が僕の中で目覚めると同時に、僕は、現実の世界への興味を失ってしまった。世の中と人生とに対する僕の視点がものすごく変わってしまったのだ。以前はわからなかったが、初めて体外に出る経験をした後では、この世界というものが、その中で生まれてから死ぬまで同じ役を演じ続けされる、一種の劇場のように思えてきた。人はあまりにも長いこと同じ作品ばかりを繰り返しているので、しまいには自分が作品中の人物であると信じ込んでしまい、それ以外の現実は存在しないと思ってしまうのだろう。
 改めて眺めてみると、僕たちは皆、真の現実に気づけずに俗っぽい雑事にとらわれて、機械的に動いているだけのロボットのようだった。重要視していることは、今生でいかに成功を収めるか、ということで、それはどうやって社会的に認められて、名声、評判、富、権力などを得るかということだった。
 大半の人は、幸せになれるかがこれで決まってしまうかのごとく、それらを手に入れることに全力を費やす。でも他の人が夢中になっていることはすべて、僕には何の意味もなかった。どれも、霊的な世界で感じたような幸せを与えてくれそうになかったからだ。 
 一方、これとは別な心配が僕を落ち着かない気分にさせていた。それは、霊的な世界で体験したことを全部細部に至るまで、完全に記憶していられるだろうか、ということだった。なぜなら、覚えていたことはすべて記録していたものの、体験したこと全部を完璧に思い出して、書き留めておくことは不可能だったからだ。そのため、体の外に抜け出すためにリラックスしようとしても、できなくなった。完全にリラックスする必要があるのに、頭に浮かぶとりとめのない思考に邪魔されてしまうのだ。僕の意識が、体外離脱を可能にしてくれるほど、落ち着いて寛いではいなかったからだ。僕は途方に暮れ、余計に神経質になってしまった。
 こんな状態で、僕はリラックスの努力を重ねていた。ある日、真っ暗で静まり返った部屋に独り閉じこもって、頭に浮かぶ雑念を払いながらベッドに横たわっていると、はっきりと「心配するな」という声が聞こえた。
 寝ていて突然起こされた時のように、びっくり仰天した。ギョッとして、目を開けて周りを見回したが、暗いままだった。手探りで明かりをつけてみても、誰もいなかったし、何の異変もなかった。ドアを開け閉めする音も聞こえなかったし、他の音も一切していなかった。
 それなら「思い過ごしだろうか」と考えて、もう一度電気を消して、またベットに横になった。そして、呼吸法によって再度リラックスしようとしていたのだが、それほど経たずに、またはっきりと「心配するな」と聞こえた。
 二回目はそれほど驚かずに済んだので、起き上がりはしないで、身を固めたまま、次に何が起こるのかを待ってみた。今回は、その声が、実際には僕の耳の中で聞こえていなかったことに気づいたからだ。明瞭な思考のように、むしろ頭の中で話しかけられたのだったが、僕自身のものではなかった。
 「誰ですか?」と、声には出さずに訊いてみた。答えが返ってくるとは思わなかったが、試してみたのだ。返事はすぐに戻ってはこなかった。2~3分経っても何も起こらなかったので、脱力した瞬間、
 「疑い深い性格だね。あんなにいろいろ体験したのに、まだ疑うのかね? 一体、私を誰だと思うのかい?」と聞こえた。
 「まさか、イザヤ?」と口にした。
 「私に訊かないで、自分で答えてごらん」
 「あなたのテレパシーの声だとわかります。でも、あなたを見ることができないので、疑ってしまうのです」
 「考えようとしないで感じ取るように。そうすれば疑いも晴れるだろう。私を見ることができないのは、君が身体に結びついたままだからだ。でも、私のことがちゃんと聞こえるようだから、それで君がしたいことには充分だろう」
 「僕がしたいことですって? 何のことだかわかりません」
 「君があることを心配していたから、心配しなさんな、と答えたのだ」
 「本当ですか? なんで僕が心配していないといけないのですか?」
 「自分で考えてごらん。それとも、なぞなぞをして遊ぶとするかね。
そうしても、私が勝つことは確かだよ。なにしろ私は思考を読めるからね。でも有利な条件を貰うのは好きではないので、また別の機会にしたいね」
 「ええと、幾つか思い悩むことがあるんです。一つには、人びとが苦しんでいるのを見ると、それが気掛かりです」
 「人の苦しみは今に始まったことではないが、以前はそれほど気に留めていなかったね」
 「以前は気づかなかったのです。正確には、今ほど意識することがなかったのです」
 「もちろんだとも。なぜなら、今は君の感受性が目覚めているので、目にしなくても、感じ取って自分のことのように思うのだ。人びとは前から苦しんでいたのだが、君はそれに気づけないでいたので、影響されなかったのだ。でも今は意識しているので、動揺している。それが普通だ。しかし、君が悩んだところで、人びとの苦しみがなくなるわけではない」
 「それはそうなのですが、何か役立つことをしたいのです。でも、無力に感じるのです。ベスタとジュノーと一緒にいた時にこの話が出たことは覚えているのですが。つまり、この世の中が実際にどのように機能しているのか霊性についてとか、人が進化して幸せになるためには愛する能力を高めなければいけないことなどを皆に伝えることを言っているのですが、どこから手をつけたらいいのか見当がつかないのです」
 「それなら、初めから始めることだよ、はっはっは」
 笑われると、僕が大真面目に話していることをイザヤにからかわれた気がして少しムッとしたけれど、イザヤはすぐにそれに気づいて、
 「怒りなさんな。私にとって大事でない、などと思わないでほしい。大事だから、今ここに来ているのだ。君の緊張がほぐれるように、少し笑わせてみたかっただけだ。ユーモアと愛との結びつきを知らないのかね? 笑いというものは、愛と同じく、内面の至福と悦びが顕れ出たものだ」
 「すみません、少し過敏になっているので」
 「構わんよ。君の力になるためにここに来ていると言っただろう」
 「馬鹿げたことに思われるかもしれませんが、このメッセージをどのように伝えたらいいのかわからないのです。それに、体験したことを思い出せなくなることも心配なのです。しかも、人が必要としていることを全部教えてあげられるほど自分が充分に理解していないとも感じています。僕にはまだ準備ができていません。僕自身、疑問だらけなんです。自分がはっきりわかっていないのに、どうやって他の人たちに説明してあげることができると言うのでしょうか?」
 「私が手伝うのだから、できる筈だよ」
 「僕が言いたいことがわかってもらえないのだと思います。助けていただいたとしても、その後で僕が身体に戻ってきた時に、教えたもらったことを覚えていられるかどうかが心配なのです」
 「言いたいことはわかるよ。でも、圧倒されているのをみると、君が私をわかっていないようだ。前にも言った通り、そのことは心配しなさんな。どんな問題にも解決策はあるし、この時代であればなおさらだ。ところで、話はできるかね?」
 「何ですって? 意味がわかりません。なんで、今僕が話せるかどうかなんて訊くのですか? 一緒に話しているではないですか」
 「わからないかね。メンタルな会話のことを指しているのではない。今、私たちはテレパシーで交信しているのだよ。私が言いたいのは、君が自分の声を使って話ができるか、音声を出せるかどうかだ。今は君が身体に繫がったままでいることを忘れないでほしい」  
 「わかりません。試してみませんでした」
 「では、やってごらん。でも、気を逸らさないように」
 そこで、イザヤに言われた通りにしようとしたけれど、その時になって初めて、イザヤに指摘されたことに気づいた。意識していなかったので忘れていたが、まだ身体の中にいたのだった。イザヤが僕に声を出すように言った時になって初めて身体を感じたが、ほとんど感覚がなく、僕の言うことなど聞き入れそうになかった。全身が麻痺し、しびれているようだった。しゃべろうと口を開けたが、声が出なかった。自分の身体の中にいたのに、動かすことができなかったのだ。
 「だめです」と、頭の中で伝えた。
 「ちょっと待ってごらん。少し手を貸してみるから」
 少しすると、頭のてっぺんからむずむずしてきて、頭部に広がっていったが、それは柔らかな感触で心地よかった。そのくすぐったい感覚は、徐々に頭の中心から首の方へ降りてきた。ボルテージの低い放電のようだったが、不快を感じるどころかともていい気持ちだった。それには、強くなったり弱くなったりする波があって、頭の上部から首にかけて流れていった。このお陰で、他の身体の部分はまだ完全に麻痺したままだったが、頭部のしびれ感はなくなった。
 「これでどうだい」イザヤが言った。
 まだ口を動かすのは大変なことで、音も出せなかったが、今度はなんとか少しだけ動かせた。つばを飲み込むのがやっとだった。
 「とてもしんどい」と思った。
 「そのままやり続けるのだ」
 何の進展もないまま、そのまま5分ほど口や舌を動かし続けていたが、ようやく最後に聞き取れないほど小さい声を出すことができた。それは囁きというよりは、のどを鳴らしたようなかすかな音だった。
 「まだ私のことが聞こえるかね?」
 「ええ」と頭の中で答えた。
 「今日のところはこれで充分だ。また機会を見てこの練習をしていこう」
 「で、この練習の目的は何でしょうか?」
 「頭の中で私の声を聞きながら、君が話せるようになるためだ」
 「何のために?」
 「私が君に言うことを録音できるためにだ」
 「録音ですって?」
 「もちろんそうだ。君たちは声を記録する器具を持っていなかったかね? それを使うのだ。そうすれば、私たちが話すことを詳しく記録しておくことができるし、君がそれを覚えている必要もない。どうだい、君の問題はこれで解決だ」
 「録音してどうするのですか?」
 「どうするかまで教えなければならないのかね? 想像力というものを使えないのかい。君たちの世界では、伝えたいことがあってそれを人に知ってもらいたいと思う場合にどうするのだろうか?」
 「本と書くということですか?」
 「たとえば、そういうことだ。皆の役に立ちたいと思っていたのだろう? この世の仕組みの実相を知ってもらって、幸せになってもらうために愛する能力を発達させてほしかったのではないのかね? 私もそれを願っているのだ。だから、自己の内面を覚醒させて何のために生まれてきたのかを思い出してもらう-それは他でもない、愛の度量を大きくすることだが、それによって今よりも幸福になれるのだ-のに必要となる知識を君が皆に教えてあげられるように手伝おう。もっとも、ただ一つの本では不充分かもしれない。何冊か必要となるだろう。だが、物事には順番というものがある。よければ、今日は手始めに題名を考えてみよう。さあ、覚えていられるだろうか。タイトルは『魂の法則』だ」
 「えっ!なぜ『魂の法則』というのですか?」
 「それに答えるのは、君がしゃべれるようになって録音ができるようになってからとしよう。後で忘れられてしまっては困るからね。君のトラウマの原因となるのは沢山だ。はっはっは」
 「全然面白くありません」
 「さて、前もって伝えておきたいことがある。『魂の法則』の中の一つが『愛の法則』だと知っているかね? これが一番重要な法則だ。宇宙に内包されるものはすべて愛を中心に存在しているからだ。そのため、この法則については話すことが沢山ある。『愛の法則』に関しては、一冊以上書き著すことが必要になるだろう」